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NEWS > フレンズレポート ホグロフスフレンズ対談 みなかみの冬山を滑る(前編)

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ホグロフスフレンズのスノーボーダー前原大和とフォトグラファー桑野智和のお二人に、彼らが活動のベースとする群馬の山々(みなかみ、片品)の魅力について語っていただいた。

─ まずはお二人のプロフィールというか、雪山歴を聞かせてください。

前原(以下「前」) オレは、両親が宝台樹スキー場のゲレンデ内にあるレストラン(マーモット)を経営してて、そこで生まれ育ったんで、2歳ぐらいからスキーはじめたんですよ。スノーボード始めたのは7歳の頃かな。まだゲレンデにもスノーボードが入ってきたばかりの頃。やってるうちにどんどん楽しくなって、ハマってって、周りのオトナたちに連れ回されていくうちに、けっこう早い時期からバックカントリーにも行くようになったかな。

桑野(以下「桑」) 早いね。10代でしょ? 自分は埼玉の住宅街で生まれ育ったので、ごくごく一般的な生い立ちですね。二十歳で遅めの雪山デビューをして仲間とスノボをしてね、ばっちりハマっちゃいましたね(笑)。その後に篭った尾瀬戸倉は日本でも最初の頃からスノーボードに寛容で、いい環境だったと思います。今でもハーフパイプやパークが充実してますよね。そこからスイス、オーストリア、カナダ、アメリカに夏冬通うようになって、ライダーも徐々に自然の山で滑り出した。
そんな中で出会ったのがヤマトです。基本的にスノーボーダーってどこか頭のネジが外れているようなぶっ飛んだヤローばかりだったんですが(笑)…、当時10代のヤマトも変な頭角を現していましたね。いろんな意味で目が離せない少年。でも滑りはイケてた。当時パークシーンの中心にあった尾瀬戸倉ローカルの中でも目立ってたね。それから彼のホームの宝台樹やみなかみのバックカントリーで滑ったり、撮ったりするようになりました。

minakamitalk_02みなかみ春の風物詩「MINAKAMI VIBES」@天神平スキー場。パークの造成から関わっただけにパートナー阿部亮介とのコンビトリックにも力がみなぎる。

─ 最近のお二人の活動の中では、どんな山が印象に残ってますか?

前 去年は一年、朝日岳と戦ったよね。

桑 ハイク7時間で避難小屋に泊まって、翌朝2時間で朝日に合わせる。朝日岳で! っていうね。地形的に滑って降りれない山だからほんときつかった! 滑走道具に、カメラボディ、レンズ3本、ミラーレス、宿泊グッズ、二泊分の食事、レスキュー道具…それで急登7時間! もうセオリーなんか聞いてられない。板を山中の樹木にくくりつけて下山したこともあったね。

前 全てが究極の状況で、自分がどんどん追い込まれて、シリアスな、常に緊張感のある山旅だよね。

minakamitalk_03近くて遠い朝日岳。冬期8回アタックの中には到達断念して板をデポすること2回。普通ではあり得ない状況も、自分たち流で上手に解決。@朝日岳

桑 怪我したらどうしようとかもあるね。写真撮ってる側としては、最小の人数でいくし、なんか起こったときに、掘り出したりとか救助呼んだり、一番関わってくるのは自分だから。そういう緊張感もある。信頼できるバディとかで何年とかかかって山っていうのはやるものだから。もちろん、サラッときてじゃあ一緒に登ろうかっていう日もあるけど、そういう日にはそういう山に行くよね。

前 信頼できるメンバーとじゃないとアタックできない挑戦ではありますよね、あの場所は。たまたま運がよくて事故もなく生きて帰って来られてるけど、まぁ日々の積み重ねというか、雪を見て、匂いとか風とかを感じてイメージして……。

桑 予想の精度上げてね。

前 それで、いいときを外さないで集まれるメンバーっていうのもあるよね。

minakamitalk_047時間かけてたどり着いた朝日岳の朝日。

minakamitalk_05丁寧に作られたスキー場のパークと違い、山は東西南北や標高などで雪質がシビアだ。総合滑走力が試される。@朝日岳

─ やっぱり、山の近くに住むというライフスタイルも、チャレンジングな山にアタックするには重要な要素ですか?

桑 もちろんです。そのために僕は山麓に移住して、2つのガイド協会に入会しました。すべては滑走撮影を安全に進めるためです。ウチは沼田の吹きっさらしのマンションで、吹雪のときは風がビュービューうるさくて眠れないくらいなんだけど、そうしたら「あぁ明日はパウダーだなぁ!だけど谷川開かないな」とか感覚でわかるんだよね。
各スキー場さんの運営ペースも網羅しているから、降ってすぐ開けるスキー場、風をかわすゲレンデ、すぐ運休しちゃうゲレンデ。自然相手だといろいろあるから。 

前 そうだね。今日の明日で「明日いいんじゃない?」「行こうよ」って動ける距離感にいることも、山をアタックする上でかなり重要視されるよね。やっぱり遠くからわざわざ来たら、多少悪くても滑ろうってなっちゃから無理しちゃう。

桑 そうそう。山や雪を見ないでスケジュール表と向き合っちゃうことが多々ある。それが近くにいれば「今日は無理しないで3日後でもいいかとか、来週でもいいかっ」てなる。

前 そんな感じで「今日は谷川ダメだから、武尊行ってみようよ」とかいって、武尊山にも行ってたよね。

桑 川場のほうからね。

前 オレ、川場スキー場から、宝台樹まで滑って自分ちの庭まで滑ったことあるからね。すんごいロングトリップ。

桑 標高2000mから9時間かけての壮大な帰宅劇。誰もやってないだろうな。

前 これはもはや、オレでしか成しえない(笑)。

桑 ちなみに我が家からも武尊の南面が見えるからね。バリ見えだから。最高だよ、朝とか美しくて、見られただけで心が幸せな気持ちで満たされる。

前 武尊も片品側は、武尊牧場とかオグナほたかとか東面は、また色が違うよね。宝台樹側は木が密なんだけど、向こう側は抜けてて、魅力的な斜面がいっぱいあるよね。
でも東面は雪崩が多いイメージがある。実際雪崩の情報も入ってくるし。

桑 武尊山の全方位を登ってみてみたけど、雪は片品側のほうがいい。だけど量はみなかみ側かな。川場側は晴れが多い。写真を撮るほうとしては、どこが一番とかじゃなくて、その日の天候や風向き、季節に合わせて登る場所を選べる楽しみがあるっていう視点で見てるかな。同じ山でも場所ごとに素晴らしい地形や景色があって、カメラ機材も重いけど、やっぱり背負って行っちゃうんですよ。滑って気持ちいいのは自分だけの感覚だけど、いい写真が撮れれば後世までたくさんの人に愛でてもらえるから。

minakamitalk_06猛烈に降ったあとのクリフジャンプ。着地ではなんと首まで埋まっていた。内陸性ドライパウダーの宝庫。

─ 国内バックカントリー最難関のひとつと言われる谷川岳のマチガ沢でのライディング写真が昨シーズンのスノーボード専門誌でも紹介されていましたが、その時のライダーが大和くんで、撮ったのが桑野さんですよね。お二人にとってはやはり特別な場所ですか。

桑野 はい、特別な場所です。マチガ沢は世界一事故の多い谷川岳の山頂から延びる45度前後の超シュートで、高低差は1000mくらいかな。前半は山頂から丸見えだけど、核心部から下は見えないし。

前 オレの思い出としては、中学生の頃だったと思うんですけど、その頃谷川岳のピークにも登ったし、肩の広場とか滑ったりしたけど、マチガ沢にスノーボードのラインが一本残ってて。今思うとたぶんTWELVEの人たちのラインだったのかな? その時は自分が滑れる斜面とか思ってなかったから「うゎ、ヤバいな」って単純に。それが印象かな。でも記憶には残ってるけど、しばらく忘れてて、10代の頃はパークとかパイプとかやってた。その頃桑野さんとの出会いもあったし、周りもパークから山よりになってって、自分も早い段階から山よりになってった。地元で近いってこともあって谷川に通うようになったのは10代の後半ぐらいかな。で、手前を滑ったりして回してたけど、TWELVEのライダーのノリさん(勝山尚徳)とかが日々谷川を見つめながら攻めてるなんて話も聞いていくうちに、二十歳を越えた頃からかなマチガを意識しはじめたのは。

─ あの写真を撮影したときの思い出はありますか。

桑 たしか、あれを撮ったのは2年前。あの時は撮る側だったけど、とにかく緊張した。遠く離れているドロップ寸前のヤマトの鼓動も聞こえてたんじゃないかな(笑)。でもいざ滑り出したら、持ち前のツッコミ具合が半端じゃなくて、あっという間に滑りきった。ほんと数年かけて準備したことだけど、ものの1分で終わっちゃった。

minakamitalk_07国内エクストリーム最難関ポイントの一つ、「谷川岳マチガ沢」の本谷ドロップ。ヤマトの滑走姿勢からも斜度のキツさがはっきりと伝わってくる。

─ 桑野さんも今年滑られたと聞きましたが。

桑 はい。僕はスノーボード写真家であるけど、それと同時に、いちスノーボーダーでもあるので、マチガ沢滑走は、大きな夢のひとつだったんですよ。今年の1月、あそこを滑れたことはすごい経験になりましたね。その日はゲレンデ周辺を流す予定だったんですが、見るだけみようって山岳警備隊の新井さんと山頂まで行って。そのままノートラックだったのでドロップしちゃいました。滑ったら一瞬でしたが、その日までに準備したいろんなことがあっての「今」だと認識しています。集中しすぎてあまり記憶がありません(笑)。でも、数年前に滑った奥穂高岳の直登ルンゼに似ていたかなあ。でも厳冬期だからもっと谷川岳のほうが強かったな。1000m以上も奥穂高岳より低いけどパワーが溢れている山ですね。

前 みなかみ周辺だと武尊山に朝日岳に…それもいろいろな方角から行ってたけど、谷川は違うよね。木がなかったり、急斜だったり。なんか異質な、ちょっと緊張感が漂う山だよね。

桑 アルパインな感じ。急峻だし、積雪多いし。海外クラスって言ったらいいのかな。でもそれがロープウェイがあるからすぐ近くまで行けちゃうし、百名山のひとつだから登山の人にも人気だしね。百名山って言えば、片品側には白根山や至仏山もあるし。3000mこそないけれど、2000mクラスでどこの山もキャラが違って面白いよね。

前 そうだね。僕らは谷川ひとつに絞って見つめてたわけじゃなくて、みなかみ、利根、近隣の圏内も滑ってて、そんな中で一緒に写真撮るようになって、マチガやりたいってなってから結果3年がかりだったけど、もっとベッタリ見つめてれば早いうちにマチガ滑れたのかもしれない。やっぱり、いい時期とかタイミングっていうのは一瞬の出来事で、日々雪を見つめてないとわからないから、3年かかったのかもしれないね。
で、滑ったのはあっという間だったけど、マチガを滑ってからまた山を見る見方とかも変わって、今度はやっぱり人が滑っていないところをファースト・ディセント(初滑走)でやりたいなって思うような気持ちもどんどん出てきた。

後編につづく

写真=桑野智和